ノンテクニカルスキルの向上訓練で5S継続
5S改善を実施する中でチーム力を養う訓練です。5Sチーム力強化訓練により、5Sチームの全員がノンテクニカルスキルを向上して人間の限界や弱点をカバーしあうことによって、トータルパフォーマンスを上げ5S活動を継続できる現場力を得る訓練を提案するものです。
ステップ1:ノンテクニカルスキルの要素の理解
5S活動がレベル3で、先ず、ノンテクニカルスキルを意識した行動を心がけるところから始めます。仕事の中でノンテクニカルスキルがどのように使われているかを意識して観察します。
ステップ2:ノンテクニカルスキル向上訓練
5S活動がレベル4では、ノンテクニカルスキル向上の訓練では、5S改善を進める中でノンテクニカルスキルを意識して行動する必要があります。
ステップ3:チーム力強化訓練
「5Sチーム力強化訓練」はシナリオに基づいて実施されます。この訓練はステップ1とステップ2を実施した経験のある5S活動がレベル4~5の5Sチームで実施するのが適切です。
ノンテクニカルスキルの要素の理解 (ステップ1)
訓練で強化を目指すノンテクニカルスキルの要素についてメンバーに説明する。中でもコミュニケーションスキルの重要性の理解が最優先です。何故なら、5S活動は一人で行うものではなく会社全員で実施するものだからです。もちろん現場の社員だけではなく会社全体の活動です。自分の仕事だけが効率が良くなっても会社全体の効率が良くなることは決してありません。
仕事でノンテクニカルスキル向上訓練を行い、気づきを養う。
自分の頭で考え、自分の言葉で発言し、自分の心で気付いて、自分の体で実践する!
- 訓練の概要
チーム力向上訓練は「4.1.4ノンテクニカルスキルの要素」を、仕事を実施する中で意識して行動してみましょう。そうすることにより、いつも当たり前のこととして気にしていなかった業務の中で、ノンテクニカルスキルを使っていることが理解できます。例えば、仕事を始める前に今日の生産数量や材料の入荷状況などの確認は情報把握であり、朝の打ち合わせはブリーフィングというようなぐあいです。
この行動によって、日常の業務の中でもノンテクニカルスキルの要素に沿って、自らも[状況認識]→[事前打ち合わせ]→[実行] →[振り返り]を行っていることに気付きます。
例えば、
[状況認識]では、今日はアレルゲンを複数持っている患者が3名いるということが分かり、課題を整理しどのような対応が必要かを検討します。
[意思決定] 食札と食器の色を分けるという識別管理の規定に従って作業を実施することを意思決定し、期待される効果やリスクへの対応に関する認識を共有します。
[実行]では、声かけに(スピークアップ)よるコミュニケーションとチームワークによって作業を行うことの重要性を認識します。
[振り返り]では、適切な役割分担のもと、チーム全体を見渡したリーダーシップがとれていたか、不十分なコミュニケーションや改善箇所に「気づき」が生まれたかについて自分の意見をまとめます。
ノンテクニカルスキルを意識して行動することによって、「探すことがないようにしよう」「ミスをなくしよう」「汚れないようにしよう」など、自分の課題に気付く力を養います。
- 訓練の実際
ステップ1の訓練では、事故事例の行動をレビューしてノンテクニカルスキル要素を理解することにより「問題を解決する考え方」体得するものです。What(問題)→Why(状況を把握し原因を確認)→How(対策の意思決定)というプロセスを理解して実行できるように訓練します。最近のクレームがあれば、それを、ない場合は以下の例を参考にノンテクニカルスキルについて話し合ってください。ない場合は、次の三つの事故について、その内容と経緯について説明しています。
事例 1.出荷検査におけるロットアウト対策
[施設の概要] 工場名: ○○製作所
社員数: 14名
[現象]
出荷検査において不合格ロットが増加して困っていました。そこで出荷検査のロットアウト品を分析して対策しました。異常の分類に基づいて区分し、因果関係を調査し解析しました。
[原因]
この調査結果より、
- 作業者は手順書に従った作業をしていなかった
- 作業方法がミスしやすいものであった
- 設備が故障しやすかった
の順番に影響が大きく対策が必要であることが分かりました。
[対策]
- 決められた作業やチェックをルールどおりに実施していない事例が散見されます。これは、リーダーや管理者の責任として確実にルールを守らせる施策が必要です。
- 個々の作業を観察すると、特に検査以降のラベル貼りや梱包において混入や忘れなどが発生しやすい作業方法になっています。検査以降の工程に集中して手を打つ必要があります。
- リーダーや保守担当といったレベルの人のスキル不足により、機器や設備の故障が原因で発生する品質問題が止まりません。人の育成と故障しない設備への対応が必要です。
ノンテクニカルスキル向上訓練 (ステップ2)
5S改善はノンテクニカルスキルを使って5S活動をうまくやろうというのではなく、チーム力強化の手段として活用しています。つまり5S活動そのものがチーム力向上訓練ということです。
仕事が忙しい時ほど「うまくいかないこと」や「もっと工夫が必要な箇所」が見えてきます。これは、忙しい時は仕事に集中し無駄をなくし効率良くやろうと行動するためです。このように仕事に集中すると、「気づき」が生まれます。
ここでは、5S改善チームの全員がこのような課題を他人事としないで、我が事として捉えるとともに、常に周囲に関心を持って、それらについて自分自身の考えを持って情報交換することによってノンテクニカルスキルを向上させます。
以下に、その訓練の内容について説明します。
仕事でチーム力向上訓練を行い、気づきを養う。
自分の頭で考え、自分の言葉で発言し、自分の心で気付いて、自分の体で実践する!
- 訓練の概要
5Sチーム力強化として5S改善を行うことを理解してもらうために、ステップ1の考え方に基づき、4.3.25S活動に役立つノンテクニカルスキルにある5S改善のフロー、[目的を決める]→[改善テーマ]→[関連情報収集]→[現状把握]→[効果とリスク]→[改善方法の決定]→[実行]→[意見交換]に沿って進めます。
- 訓練の具体的な実施事項
①現状把握
テーマにあげた作業にどんな問題が潜んでいるか、予測される問題点を5Sの視点で発言してもらう。
- 効果とリスク
出された意見の中からポイントとなる重要項目を抽出する。 - 改善方法の決定
リーダーはポイントとなった重要項目の改善案について全員から案を出してもらい、その中から有効な2~3件を決める。 - 実行
全員の合意に基づいて改善策を実施する。 - 意見交換
①~④までのノンテクニカルスキルについて意見交換して、自分の気付いた点を整理する。これを定期的に繰り返す。
- 訓練で目指すスキル
5Sチーム力強化で目指すのは、チーム力を向上させるために必要なノンテクニカルスキルです。その主なノンテクニカルスキルを次の5つに整理しました。
- 効果的な5Sチームをつくるリーダーの能力
- リーダーとメンバーやメンバー個々は何でも言える雰囲気・環境をつくる
- リーダーはメンバーの意見をもとに率先して進める
- メンバー一人ひとりが、個々の役割のリーダーとして行動する
- コミュニケーション力
- ブリーフィングとは訓練を開始する前に行う事前打ち合わせ、ここで情報を共有する
- 権威が低い側でのコミュニケーションにはアサーションを活用する。アサーションとは「自己表現」のことで、自分も相手も大切にして情報や疑問について自己表現することです
- 権威が高い側でのコミュニケーションでは、意見の出やすい環境つくりを行う
- 確認会話とは相手の言葉をそのまま繰り返すのではなく、言い換えや結果として起こることを相手に伝える方法で確実に相手に伝える
- 適切な役割の配分
- メンバー個々の勤務形態や業務内容を考慮した役割配分を行い、全員が相互にサポートする
- 適正な負荷配分による平準化で、チームで対処する意識を持つ
- 自分が得た情報は関係者間で共有する
- 状況認識力
- 複数の情報を入手し理解することにより状況を把握・認識し共有
- 現在の状況だけでなく、この先どうなるか警戒と予測する
- 認知バイアスなどによる複雑な情報で状況把握する
- 鳥の目で全体を俯瞰し、虫の目で様々な角度から細部を見る複眼の目、魚の目で周りの変化や作業の流れを見る
- 問題解決能力
- 原因分析の結果による解決策の選択
- 解決策を実行
- 決定、行動のレビュー
- 誰が正しいのではなく、何が正しいのか
チーム力強化訓練(ステップ3)
リスクの高い業種において行われるシュミレータ訓練の代わりにシナリオに基づいて訓練を行います。これが5Sチーム力強化訓練というものです。これはチームの全員がノンテクニカルスキルを理解していないとうまく進めることができませんので、ステップ1とステップ2を実施した後、次のステップ3へ進みます。
もちろん、これらの研修や訓練は、5S活動の時間を設けてやっても良いし、日常の業務の中で実施してもかまいません。業務の中で実施する時は、特別な作業が追加されるのではありません。5S改善は5Sを実施して改善するものです。その事例を次の「5Sチーム強化訓練」で説明します。
食品業界においては食品安全というリスクがあり、アレルゲンの混入によるアナフィラキシーショックや食中毒などの問題、更に、昼の食事の時間には人が集中し列ができてしまいます。このような時間帯は最も多忙な時間となりトラブルも発生しやすくなります。このような状態の時は、仕事の配分が適切で平準化されているかということが重要になりますが、特定の作業に負担がかかっているなど、一部の人に仕事が集中しないように決められていることが大事であり、毎日の仕事を始めるための打ち合わせを行い、役割が決められ全員が納得していることがチームワークの前提になります。
下記の5Sチーム力強化訓練の事例は、食品安全の問題に対する訓練だけではなく、平時における5S活動のチーム力の向上にポイントをおいています。
5S活動で行うレベルは航空界や医療業界でのリスクとはかなりの隔たりがありますが、ノンテクニカルスキルの活用という点ではどのような業種であっても効果が期待できます。年に1~2回実施する5Sチーム力強化訓練は、継続的な成長のために訓練のテーマや方法の改善資料とします。
では、実際に5Sチーム力強化訓練の三つの事例を次の(1)から(7)で説明します。
(1)5Sチーム力強化訓練表の作成→ (2)テーマ設定→ (3)シナリオ→ (4)状況認識→ (5)意思決定→ (6)コミュニケーション→ (7)リーダーシップ
5Sチーム力強化訓練表は成長の記録として残すようにします。原因分析や対策、改善の結果は訓練の目標となる重要項目ですが、本来の目的ではないことを理解して、できるだけ個人のノンテクニカルスキルの成長が分かるように目立つように記録します。
チーム力強化訓練はヒューマンファクターによる事故を未然に防止するための訓練です。例えば、ヒヤリ・ハット、改善、KYT(危険予知トレーニング)、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)、DR(Design Review)等に基づいた事故の未然防止や安全や品質向上のための5S改善がテーマになります。
航空界や医療界のノンテクニカルスキルの訓練のような大きなリスクに関するテーマとは異なり、相対的にリスクの低い業務におけるノンテクニカルスキルの向上を目指します。シナリオはいわゆるシミュレーター訓練の役割をします。
例えば、東京から福岡までのフライトに対して、天候や航空機の離発着など色々な状況を設定したシミュレータによって飛び、その間の情報を収集しフライトの後で話し合って、そこから新しい気づきによって改善箇所を見いだすというものですが、この方法を5S改善に活用しようというのが狙いです。
※効率的なシナリオの進め方
- 問題の原因究明法を理解している
- 話の内容が具体性を欠くと理解してもらえない
- 話す前に整理する
- 話す内容を一つに絞り込む
- 危険予知への対処を決める
- もっと良いアイデアがないか探す
CRMの効果とはリスクを回避することですが、ここでの効果とは5S改善によって仕事の不具合をなくすことを指します。例えば、5Sによって工具が見つからないために機械を止めるというようなムダをなくすということなどです。危険とは広い意味での不都合なことです。
※以下に5S改善手法が使える三つのシナリオをとりあげましたので確認してみましょう。職場にモノが存在する限り、5Sに関係ないということはありませんので気軽に取り組みましょう。
シナリオ1
アレルギー事故防止に対するノンテクニカルスキルの訓練シナリオです。
[病院の患者給食における変更]
- 献立表より、今日入院したA患者は「えびアレルギー」であることが分かった。
- 調理師のCさんは、指示通りにエビなしの天ぷらを調理し、盛付けの後A患者様と書かれたラップをかぶせて作業台の上に置いた。
- 各フロアに上がって食事提供の準備を終え厨房に戻った栄養士のBさんは、作業台の上にA患者様と書かれたラップをかぶせてある天ぷらが残っているのに気付いた。
- これから後の行動を皆でシミュレーションして見ましょう。
- 最後に全員で振り返りを行う。
※献立変更から食事提供までの工程の流れにしたがって、メンバーは事前に検討していたこと、特に予知されるエラーや各工程の課題について意見を出し合う。リーダーはそれらの意見を整理しチームの総意として時間内にまとめる。
シナリオ2
5S改善においては将来のリスクについては、改善することによって生じる可能性があるものを抽出する危険予知トレーニング(KYT)で取り上げられたものです。
[危険予知トレーニングの結果にもとづく行動]
テーマが倉庫の棚の整理・整頓であり、棚に表示をして定位置を決める改善の事例を考えてみましょう。この時の危険予知として、
- 栄養士のAさんは盛付け中に数量が不足しているのに気付き、急いで食品庫に取りに行った。
- 探していた食材の置き場所は分かったが、表示が小さくて読みづらく、棚の上を指しているのか下の棚なのかも分からなかった。
- 盛付け作業台では食材が届かないので慌ただしい雰囲気になっている。このままでは、配膳遅れになる可能性がある。
- これから後の行動を皆でシミュレーションしてみましょう。
- 最後に全員で振り返りを行う。
これらの収集された危険予知の①~③の情報は、ミーティングの前にメンバーに知らせておきます。これは、ミーティングに参加する前に自分の周りのメンバーと意見交換するためです。
※ミーティングでは、業務中に上記の事象が発生した時の対応を、ノンテクニカルスキルを活用して実施します。リーダーはそれらの意見をまとめチームの総意を時間内にまとめる。
シナリオ3
これは、4.2.4のノンテクニカルスキルに関する事故で取り上げたものです。
[アレルギー代替食の取り違い]
- 2人は小学5年の同じクラスの男児と女児で食物アレルギーがあった。当日はスパゲティナポリタンの給食で、小麦アレルギーのある男児に粉チーズがかかったもの、乳製品アレルギーのある女児に麺入りが用意されていた。
- 当日は欠勤があり、いつもより忙しかったこともあり調理員は、取り違えて、男児に麺入り、乳製品アレルギーのある女児に粉チーズがかかっている食器に識別のシールを貼った。
- 配膳チェックで、小麦アレルギーの男児に麺入りが載っているのが見つかったが、女児の代替食が見つからない。
- これから後の行動を皆でシミュレーションして見ましょう。
- 最後に全員で振り返りを行う。
※リーダーはこれらの意見を整理し、チームの総意を時間内にまとめる。
是正処置の現状分析に該当します。現状の正しい状況を把握して、適切な判断をくだす必要があります。それは、情報の入手、理解、予測の流れで展開されます。大事なことは次の項目について事前に考えをまとめておくことです。この時に、他のメンバーとのコミュニケーションも積極的に行い情報を共有します。
- 情報収集
- シナリオより情報を収集し整理する
- 状況把握
- 最新の状況を把握する事前の予測と現状を比較する
- 期待される効果
- 事前予測と現状の比較、実施後の効果を予測する
この訓練の本来の目的は、個々のノンテクニカルスキルの向上によってチーム力をアップするのが本来の目的であり、その訓練手段として5S改善を実施することを理解していることを確認する。リーダーはシナリオに沿って実施した状況認識に基づいてチームの今後の行動を決める。
- 解決策の選択
- 複数の中からリスクと効果を比較検討する
- 決定の実行
- 実施事項を決定したことをメンバー全員で共有する
- 決定・行動のレビュー
- 実行と効果の評価
- 結果に対するすみやかな対応
5Sチーム力強化訓練においてもコミュニケーションが最も重要なノンテクニカルスキルですが、コミュニケーションスキルだけに着目して訓練せず、あくまでもチーム力を向上させるための訓練の一環として訓練します。なぜなら、良好なコミュニケーションにより意思疎通するだけではチーム力は向上させることは難しく、チームの最適な意思決定をするための情報収集とチームメンバー全員の共通認識という広い視野をもつことが必要です。このような状況認識の中で良好なコミュニケーションができたかをチェックします。
5Sチーム力強化訓練の最後は、意思決定や行動のレビュー(振り返り)を行い、ノンテクニカルスキル上の問題点をとりあげます。これは5S改善を進める中で、チームの仲間の意見や行動からノンテクニカルスキルの強化につながる気づきを出し合うものです。